どうやらあたしたちはお互いに見誤っていたようだ、
昨日のことはショックが強すぎて
どんなことを言われたかという詳細はあまり覚えていない。
やはり母は酒任せに言い過ぎたらしく、
彼女としては、帰っておいでと言って欲しいのかもしれないと
そう気付いてそれを伝えたかったんだって。
まぁ確かに帰ってこいと散々言われたが、
そんな優しい印象ではなかったから
あたしは真逆に捉えてしまったらしい。
あたしは昨日の一件で、
「医者の嫁はそんなに楽なもんじゃない」
「それが好きなんか知らんけど、どんどん変になってる」
「そんなんじゃ社会に出れるわけがない」
「コネも遅くなればお金がたくさん掛かるようになる」
この辺の言葉が、凄く心に刺さったんだ。
そりゃ自分でも社会に出る自信がないから
お嫁に行きたいって思ったわけであって、
だけどだからってお嫁さんが楽だとも思ってないさ。
ただ‘お金が掛かる’ってのを、あたしは意識してなくて
それがすごくショックだった。
そうか、結婚してすぐやめるかもしれないのに
父は頭を下げてお金を渡さなければならないのか。
あたしが帰ったって、お金が掛かるばっかりで
そんなの迷惑なんかもしれん。
帰ったら嬉しいとかそういうのはあるけど、
だけどそれ以上に、あたしはこのまま甘えていていいのか?
確かに就職先もなく早稲田卒で家事手伝いなんかしてたら
煙たがられて貰い手なんかいるはずもない。
そしたらますます金掛かるばかりのお荷物じゃないか。
冷水を頭にぶっかけられたような感覚だった。
あたしが今まで考えていた広島就職とかお見合いとか、
そういうの全部が、ただの逃げで、ただの甘えで
そんなんじゃいけないんじゃないかって。
そしたらもう、真面目に就職活動するしかないと思うしかなかった。
みんな生きていても孤独で辛くて不安なのなら
あたしは甘えてちゃいけないじゃないか、
あたしもちゃんと自分の足で立って
社会に立ち向かうべきなんじゃないかって。
強く、決心した。
そんな矢先に母から電話があって。
昨日はごめんねと、
言い過ぎたんだろうなって思ってるって。
ただ帰ってきてほしいだけなんだよってそう言われても。
ずっと、ずっと、欲しかった言葉。
いま言われても。あたしは昨日決断したのに。
どうしていいか、わからないよ。
昨日から泣いてばっかりだ。
「信号」
社会のルールなんて関係ない
赤も青も黄色も、白いラインも
目の見えない僕は歩き方を知らないから